県内の成長意欲の高いベンチャー企業をご紹介するシリーズ。今回は、「家業」いう伝統の技と心を守りつつも、新たな挑戦をして革新を起こし続ける、株式会社小林大伸堂(鯖江市)の事例をご紹介します。
「家業を継ぎたい」と25歳で印鑑彫刻士の道へ
株式会社小林大伸堂は創業130年、5代にわたる歴史を持つ老舗印章店です。同社は印鑑のインターネット通販に先駆けて着手し、実店舗ではパワーストーン宝石印鑑を取り扱い、松屋銀座など都心の百貨店で定期的に特別受注会を催すなど、伝統の技術と心を守りつつも、新たな取組みに挑戦し続けています。
同社の5代目で常務取締役を務める稔明氏は、現在36歳。大学卒業後、大阪市の老舗宝飾店に就職し、2012年に帰郷。25歳で小林大伸堂に入社しました。
4代目の父・照明氏も学んだ印鑑彫刻の師匠の元で一年ほど修行し、経験と技を積んだ稔明氏は、国家資格の印章彫刻技能士試験に合格。宝石の知識をもつ印鑑彫刻士として、開運印鑑から宝石印鑑まで幅広い要望に応えるまでに成長していきました。
鯖江市の実店舗
「脱ハンコ」宣言のピンチをチャンスに
転機はコロナ禍の政府による「脱ハンコ」宣言でした。実店舗とネットショップを連携させた経営で業績は好調ながらも、稔明氏は危機感を抱きはじめます。行政手続きにおける認印全廃など、政府の「脱ハンコ」推進が加速していく中で、「既存ビジネスが無くなってしまうのではないか…」と一時は『廃業』という言葉も脳裏をよぎったそうです。
家業を守っていくためにも、この状況をどうにか打開したいと考えた稔明氏は、印鑑を従来の「紙に押す」ものから「背中を押す」ものに変えるという発想に大きく転換。「脱ハンコ」をピンチではなくチャンスと捉え、自社の強みを活かした新事業展開に挑戦しました。そこで生まれた商品が、「しるし結び」と「こまもり箱」です。
「しるし結び」と「こまもり箱」
「しるし結び」とは、ふたりの名前を1つに結んだしるしをペアグラスなどに刻印することで、結ばれ続ける2人をあと押しするメモリアルギフトです。単なる名入れではなく、老舗印章店として「開運印鑑」を作り続けてきたノウハウを活かし、運気を込めた印影をオーダーメイドで作成するのが特徴です
しるし結び縁グラス(ペア)
「こまもり箱」とは、我が子の命名に込めた想いを桐箱に印字する出産記念ギフトです。印鑑をはじめ大切なものを木箱の中に保管して将来の我が子に贈ることで、親子の絆を結びます。「開運印鑑」の販売で培ったお客様の想いを聴く力を生かし、命名に込めた想いを文章にまとめるオリジナルサービスが特徴です。
こまもり箱
2人のしるし結びを刻んだペアグラスはひと月に60ペア、こまもり箱はひと月に30箱を売り上げる人気商品に成長。ピンチをチャンスに変えた老舗印章店の新たな挑戦は地元メディアや大手雑誌に多数取り上げられました。
世界で活躍する後継ぎベンチャーへ
新事業展開に手ごたえを感じて全国展開を視野に入れた稔明氏は、さらなる成長を目指し、福井ベンチャーピッチ(2023年11月)に登壇。2か月間の事前メンタリングを経て、投資のプロを前に今後のビジョンを発表しました。伝統ある印鑑を、「紙に押す」から「背中を押す」ものに再定義するビジネスアイデアは話題を呼びました。
福井ベンチャーピッチでの登壇の様子
「これまでは自分の好きなものを作っているという感覚だったが、ピッチ登壇をきっかけに、世の中で求められているものを作っているんだということを実感できた。これからもビジネスを通じて、世の中の課題を解決したり、文化を作っていきたい」と意気込みます。
今後はさらにビジネスに磨きをかけ、世界を舞台に活躍する後継ぎベンチャーとして、ますます飛躍していかれるのではないでしょうか。
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本記事は、ふくい産業支援センターが発行している情報誌「F-act」に掲載されています。
★情報誌 F-ACT(ファクト)
https://www.fisc.jp/fact/
岡田 留理(おかだ るり)
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