ふくい産業支援センターで、ベンチャー支援事業をはじめて3年が経つ。これまで、福井ベンチャーピッチや福井ベンチャー塾など、福井のベンチャー経営者の方々がビジネスモデルをブラッシュアップする「場」を作ることに、情熱を燃やし取り組んできた。
しかし、世の中全体が新型コロナウイルスの影響を受けている今、これまでのような方法で「場」を作ることが難しくなり、今後どのように事業を行っていけばいいのかと、身動きの取れない日々を送っている。
そこで、コロナ禍で開催した第5回福井ベンチャーピッチを切り口に、この2か月の間に感じたことを総括して一区切りをつけ、新年度に向けてがんばろうという思いを込めてこの記事を執筆した。
長文になるが、ご一読いただきたい。
目次
コロナ禍での開催~第5回福井ベンチャーピッチ
2月も半ばを過ぎた頃、新型コロナウイルスの影響で、大勢が集まるイベントが軒並み中止や延期を発表し始めた。そして、3月6日に予定している第5回福井ベンチャーピッチもまた、開催の判断が迫られていた。
福井ベンチャーピッチとは、福井発ベンチャー企業が、資金調達・販路拡大・事業提携を求めてビジネスプレゼンする、当センター主催のピッチイベントだ。ピッチイベントでは、登壇企業のビジネスモデルの「旬」をあつかうため、軽々に中止や延期といった判断がし難い。悩んだ末に、ほぼ無観客状態での「オンライン開催」を決断した。
直前の方針転換で準備に多忙を極めたが、当日は、多くの方の協力を得て、無事に終えることができた。200名近くの方が視聴してくださり、「最高の福井ベンチャーピッチだった」というコメントも多数寄せられた。
しかし、イベントの高評価とは裏腹に、登壇企業の資金調達・販路拡大・事業提携の実現は難航した。国内全体が自粛ムードの中で、経済活動が急速に縮小し、ビジネスマッチングが進展しづらい状況に陥っていた。
過去の登壇企業の場合、登壇直後から問い合わせの電話やメールを受けはじめ、1週間のうちに複数の商談話が持ちかけられるというのが常だった。ところが今回の場合は、ピッチ登壇後10日経っても、具体的な商談話の報告があまり得られなかった。
私は予想を超える状況の厳しさに愕然とした。
「登壇企業はこの状況をどう受け止めているのだろうか―」
先行き不透明な状況の中でピッチイベントを決行したことが、かえって登壇企業に精神的な負担をかけてしまったのではないだろうかと、不安でいっぱいになった。
生き残ってビジネスモデルを実現させたい
ピッチ登壇から2か月余り経った2020年5月。登壇企業の一社である株式会社ぼんたの齋藤敏幸社長は、「僕にとっては最高のタイミングでピッチに登壇できたと思っている」とふり返る。
株式会社ぼんたは、アパレル1店舗、飲食店12店舗を経営する創業20年目の会社だ。アルバイトを含む従業員はグループ全体で190名にのぼる。第5回福井ベンチャーピッチには、さらなる事業拡大を目指して登壇。ぼんた独自の人材活用ノウハウをいかし、人手不足に悩む地方の飲食店を救うビジネスモデル「バックアップ再生横丁」を発表した。
しかし、ピッチ登壇と時を同じくして、新型コロナウイルスの影響が飲食業界を直撃。会社の売り上げは一気に9割減まで落ち込み、現在は、金融機関から融資を受けながら、新型コロナウイルスが終息するのを待っている状態だ。こんな散々な状況にもかかわらず、齋藤社長は「最高のタイミングだった」と言う。
「今は焦っても仕方がない。たしかにいろんなことが停止している状態だが、ピッチ登壇でつながったVCさんやデベロッパーさんとは今も連絡を取り合っており、そういった人たちとのつながりに励まされている」
「それに、僕にとってはむしろ、ピッチ登壇に向けたビジネスモデルのブラッシュアップ期間の方が重要だった。専門家の方々に徹底的に壁打ち相手になってもらうことで、ビジョンが明確になり、ビジネスモデルが骨太になった。あの時の経験が、絶対に生き残るぞという心の支えになっている」
「新型コロナウイルス終息後には必ず、ピッチで発表したビジネスモデルを実現したい。そんな強い気持ちになれたのは、福井ベンチャーピッチに登壇して覚悟がついたから。だからこそ、自分にとっては最高のタイミングだった」
福井ベンチャーピッチは覚悟を決めていく経験の場
福井のような地方では、見通しを立て、順序立ててマイルストーンを置き、確認しながら着実にビジネスを進めていくような、着実成長型の企業が多い。地方のビジネススタイルに慣れている福井発ベンチャーが全国に打って出る場合は、自分のビジネスの現状を俯瞰し、ロードマップを確認しながら、頭を切り替えていく準備期間が必要だ。
福井ベンチャーピッチでは、そういった準備期間をサポートするべく、ピッチ登壇の数ヶ月前から、登壇企業にメンタリングを行ったり、専門家に壁打ち相手になってもらう機会を設けたりしている。登壇企業が、第一線で活躍する外部メンターと関わることを通じて、成長志向にマインドセットしていくことが目的だ。
「今はまさにパラダイムシフトの時期。沈んでいく産業もあれば新しく生まれてくる産業もあると、僕自身が肌で感じている。福井ベンチャーピッチは、そこにチャンスを与えられる存在。ピッチに登壇する過程で覚悟がどんどん決まっていく。そういった経験ができる機会は、地方にはなかなか無い」と、齋藤社長は力を込めた。
次の一手を模索するベンチャーの力になりたい
2019年春、福井県に新しい知事が誕生したことにより、今、福井のベンチャー支援に追い風が吹いている。2040年を見据えた「福井県長期ビジョン」の中間とりまとめ(案)の中でも、尖ったビジネスモデルをもつベンチャー企業の育成が重点施策として記載されている。メンタリングや投資などによるベンチャー企業の応援強化、将来的な株式上場などモデルとなるリーディングカンパニーの創出が実行項目として挙げられるなど、福井県の施策もベンチャー企業の応援に積極的だ。
加えて、2017年にマザーズ上場を果たした、ユニフォームネクスト株式会社の横井康孝社長をはじめ、県内外のベンチャー支援者が多数協力してくださるなど、福井のベンチャー企業を応援する環境は整いつつある。
※福井ベンチャー塾の様子
新型コロナウイルスが経済活動にもたらす影響は甚大だが、この困難な状況を乗り越えさえすれば、再びジャンプできるタイミングが巡ってくるはずだ。アフターコロナを迎えたその時に、チャンスを逃さぬよう、現状を受け入れつつも前向きな姿勢で未来に備えていく必要がある。
今回のような非常事態になると、当センターのような地方の公的機関は目先の対応に追われがちだ。ともすると、中長期的な視点で成長をうながすベンチャー支援の施策が後回しになりがちだが、こんな大変な時期だからこそ、次の手を打っていこうと模索するベンチャー企業の力にならなければいけないと痛感している。
当センターでは、当面の間はオンラインツールを活用しながら、ベンチャー向けの経営塾「福井ベンチャー塾」を実施したり、専門家による壁打ち会を行うなど、これまで以上の熱量でベンチャー支援に取り組んでいくつもりだ。福井ベンチャーピッチの6回目も2020年内に開催を予定している。「今まで通り」が何一つ通用しない状況ではあるが、世情に合わせて支援の形を変えながら、引き続き福井のベンチャーを盛り上げていきたい。
編集後記
今回は、株式会社ぼんたの齋藤社長にご協力いただき、新年度に向けてがんばろうという思いを込めてこの記事を執筆しました。新年度もどうぞよろしくお願いいたします。
なお、ふくい産業支援センターでは現在、今年度の福井ベンチャー塾(全5回)の塾生を若干名募集しています。応募締切りは、5月25日(月)です。
成長意欲の高いベンチャー経営者の皆様のご参加を心よりお待ちしております!
◆担当者プロフィール◆
特定社会保険労務士。開業社労士時代は、中小企業の顧問、労働局の総合労働相談員、人材育成コンサルタントを経験。2015年4月に(公財)ふくい産業支援センターに入職。現在は、創業・ベンチャー支援業務を担当している。2018年11月、近畿経済産業局が取りまとめる関西企業フロントラインにて、関西における「中小企業の頼りになる支援人材」として紹介された。(ふくい産業支援センター/岡田 留理) |
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〇福井県におけるベンチャー支援
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〇福井県における女性創業支援
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■問合せ先
公益財団法人ふくい産業支援センター
ふるさと産業育成部
ベンチャー・Eビジネス支援グループ 岡田
Tel:0776-67-7416
E-mail:ebiz-g@fisc.jp
HP:https://www.s-project.biz/
岡田 留理(おかだ るり)
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