こんにちは。ふくい産業支援センターで、福井県におけるベンチャー支援を担当している岡田です。
今回は、時代の変化を追い風に、ビジネスの新しい切り口を見つけ、さらなる販路拡大に挑んでいる株式会社秀峰(福井市)の事例をご紹介します。
「ビジネスの新しい切り口を見つける」というとハードル高く感じるかもしれませんが、「長年愚直に取り組んでいることが、実は今の時代の流れにのって新しい価値を生み出しているのかもしれない」という発想の転換が、大きなヒントに繋がることもあります。
よろしければ、ご覧ください!
「水と空気以外はなんでも印刷できる」唯一無二の優れた技術
株式会社秀峰は、1983年に現会長の村岡貢治氏が創業した、特殊曲面印刷および印刷機システムの販売を行う会社です。創業当初はメガネの販売会社としてスタートしましたが、1989年に大きく舵を切りました。従来は転写フィルムを使って写し取る方法でしかできなかった曲面への印刷を、ダイレクトに印刷できる特殊な印刷技術を開発したことがきっかけです。
「印刷に関して素人だったからこそ思い付いたアイデアだった」と話す会長の村岡氏は、元銀行員。試行錯誤で研究開発を繰り返し、印刷技術をブラッシュアップさせ、印刷対象物を大型化・多様化させていきました。
「水と空気以外はなんでも印刷できる」というこの革新的な印刷技術は、2007年に「第2回ものづくり日本大賞 内閣総理大臣賞」を受賞。現在は、メガネや携帯電話、自動車の内装部品や高級サッシなど、幅広い分野から注目を集めています。
2019年5月、時代が平成から令和に変わるタイミングで村岡右己氏が2代目社長に就任。代替わりをきっかけに、技術開発のみならず、販路拡大にも精力的に取り組んでいます。
時代の移り変わりが追い風に
同社の印刷技術の強みは、「多品種・小ロット・低コスト」です。直接対象物の定位置に高精度な印刷を行うことができるため、意匠性の高い高付加価値の商品への印刷を実現することができます。この技術は同社が特許を持つオンリーワンのもので、業界ですでに普及しているフィルム転写型の曲面印刷方式では実現不可能な事でした。当時は消費者ニーズの多様化も進みはじめており、自動車や住宅建材などの「高級ライン」に採用され、年々受注を拡大。2015年からは、印刷機を販売するフランチャイズ事業を開始し、国内外に拠点を拡大して大量生産にも耐えられる体制作りに力を入れています。
しかし一方で、すでに業界標準として定着し、大ロットでのコストダウンできるフィルム転写方式の圧倒的なシェアに食い込んでいくためには、あともう一押しインパクトのある強みが欲しいと村岡社長は考えていました。
SDGs時代を切り口に販路拡大「今が絶好のタイミング」
そういった状況のなかで、新たな切り口として見出したのが、「環境への配慮」という視点でした。
持続可能な開発目標(SDGs)とは、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。
「従来のフィルム印刷方式は、インクを定着させる際に有機溶剤を使用することになり、どうしても廃液が生じる。当社の印刷インキは有機溶剤を使用しないため、廃液が出ず、環境に非常に優しい。環境への配慮がますます必要となる時代にあって、その特性は大変な武器になると気づいた」そのきっかけになったのは福井ベンチャーピッチへの登壇だったといいます。
「ピッチに登壇し、経験豊富な専門家からアドバイスいただけたことが大きなきっかけになった。特に、SDGsを切り口にビジネスを整理するとビジネスチャンスがあるという視点に気づかされたことは目から鱗だった」
「今が販路拡大の絶好のタイミング。海外展開に向けて課題はたくさんあると思うが、ぶつかる壁には向かっていきたい。時代の変化をとらえ、強みに変えるという意識をもって、当社の曲面印刷技術を世界に広めていくつもりだ」と村岡社長は意気込みます。
担当者のつぶやき
今回の事例はいかがだったでしょうか。
SDGs時代の今は、「SDGsの目標と自社の事業がどう関連しているのか」という視点から自社のビジネスを整理することで、ビジネスチャンスを見出すことが可能です。既存事業から新たな価値を見出して、一点突破でニッチトップ目指していくという考え方もまた、ベンチャー的思考といえるのではないでしょうか。是非、皆さまの会社でもチャレンジし、新たな成長に繋げていただければと思います。
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本記事は、ふくい産業支援センターが発行している情報誌「F-act」に掲載されています。
★情報誌 F-ACT(ファクト)
https://www.fisc.jp/fact/
岡田 留理(おかだ るり)
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