県内の成長意欲の高いベンチャー企業をご紹介するシリーズ。7回目の今回は、眼鏡づくりで培った、曲げる(ベンディング加工)・つぶす(圧延加工)・磨く(研磨加工)という金属加工の技術力を異業種に応用展開し、さらなる販路拡大に挑んでいる有限会社 北陸ベンディング(鯖江市)の事例をご紹介します。
ベンディングマシン一台で創業
有限会社北陸ベンディングは、社長の萩原勉氏が実弟と共に1993年に創業した、チタンをはじめ様々な金属の加工を手がける会社です。同社は、実家の農作業小屋に一台のベンディングマシン(曲げ加工を行うための機械)を設置するところからスタートしました。
どんな難しいオーダーも丁寧に応える確かな技術力で信頼を積み重ね、今や、”曲げる・つぶす・磨く”金属加工技術のトップランナーとして、全国・世界をマーケットに展開しています。
※ベンディング加工された眼鏡フレーム部品
Google Glassのファーストベンダーに選定
創業以来一貫して眼鏡フレームの部品加工を行っていた同社が、異業種の分野に乗り出したのは約10年前。リーマンショックにより、眼鏡業界全体の業績が急速に悪化したことがきっかけでした。ピーク時には月産70万枚受注加工していた眼鏡フレームも、15万枚まで激減。「このまま眼鏡フレームの部品加工だけに頼ってはいられない」と萩原社長は決断し、技術の応用展開に乗り出します。
試行錯誤を繰り返しながら、2012年には見事、Googleが発表したメガネ型ARデバイス「Google Glass(グーグル グラス)」のファーストベンダーに選ばれるなど、その技術力は”世界の大企業”からも高く評価されました。
初めての自社商品を開発
萩原社長が次にチャレンジしたのは、初めての自社商品「さばえルーペ」の開発でした。さばえルーペとは、眉骨で支える新発想の拡大鏡。同社独自の曲げ加工技術を応用し、眉の上でピッタリ止まるフレームを生み出したことにより、メガネの上からでも違和感の無い柔らかな掛け心地を実現することに成功しました。
従来の拡大鏡が抱えていた「長時間経つと耳が痛くなる」「外すときに眼鏡も一緒に外れてしまう」というデメリットを解消したことで好評を博し、現在は、釣り人から歯科医やネイリストまで、様々な業種・職種の方々に愛用されています。
さばえルーペは、その高い技術力と実用性が評価され、2019年に「関西ものづくり新撰2019」(近畿経済産業局)、2020年に「はばたく中小企業・小規模事業者300社」(経済産業省)に選ばれました。
※さばえルーペ発表記者会見の様子
ピッチ登壇を機にさらなる販路拡大を目指す
しかし一方で、商品の高評価とは裏腹に、さばえルーペの販促が思うように展開していきません。「うちは良いものは作るけど、営業が下手」と萩原社長は課題感を持つようになりました。同社はそれまで、高い技術力による差別化を図ることで順調に業績を伸ばしてきましたが、自社商品の開発をきっかけに、「攻める営業」の必要性もまた痛感したのだそう。そこで、新たな展開のチャンスを掴むべく挑戦したのが、第7回福井ベンチャーピッチ(2021年)の登壇でした。
「最初は、さばえルーペが売れさえすればいいと思ってエントリーしたが、専門家から多数のアドバイスをもらうことを通じて自社の強みを俯瞰でき、売るべきものは商品単体ではなく、自社の高い技術力そのものなんだと再確認することができた。ベンチャーピッチ登壇を通じて、自社のブランド力を上げていける可能性を実感し、俺たちでもいける!と自信につながった。今後は積極的に異業種とのコラボレーションや自社ブランドの商品開発を進めていきたい」と萩原社長はさらなる販路拡大に向けて意気込みます。
※福井ベンチャーピッチ登壇時の様子
担当者のつぶやき
今回の事例はいかがだったでしょうか。福井には多種多様な優れた技術がありますが、上手く見える化できていないケースも少なくありません。ポイントは、伝える内容(会社の魅力)と伝える方法(見つけてもらう仕組み)です。思い切った大胆な切り口を見つけて、印象的に伝えることに挑戦してみるといいかもしれません。
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本記事は、ふくい産業支援センターが発行している情報誌「F-act」に掲載されています。
★情報誌 F-ACT(ファクト)
https://www.fisc.jp/fact/
岡田 留理(おかだ るり)
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